新郎
「一日一日を、たっぷりと生きて行くより他は無い。明日のことを思い煩うな。」
の一文で始まる、太平洋戦争開戦の日(12月8日)に書かれた作品。ここから先の作品は、戦争と切り離すことの出来ないものばかりである。
極端に、まっとうで、清廉潔白な人間として振る舞う太宰さんの姿が描かれる。
時代の、とてつもなく大きな変わり目において、なんというか、こう、異様に清々しくなる気持は、わからないでもない。まさに新郎の心境。
たとえばそれは、元日を迎えるたんびに、なんか、新しく生まれ変わったような気になるそれと、程度は全然違うけれども似ているのではないか。全てにおいて優しく正しくあろうとする、それだ。もちろん、これから一年がんばろう、というそれと、日本が、あるいは自分の暮しが、明日にはどうなるかわからないそれとでは、おおいに意味合いも違うわけだが。なんかわかると思ったわけだ。
かつては、おおいに自ら死のうとしていた作家が、戦争という状況下では静かに穏やかに生きようとしている。なんとも人とは複雑なものである。
2010年4月 4日 13:53
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コメント
浩平さん、今日もお疲れ様です。
自分で命を棄てようとした太宰氏が“戦争”というものを経験して、何を思ったのか。
命を失うチャンスだったのに、生きようとする。
私は正直嬉しかったです。
某作品で、人から着物を貰った時、又、某作品で、(案外素直な)青年に弐拾円置いて行かせて家賃が払えると安心した時、そういう小さい瞬間瞬間に“生きていよう”“生きられる”“生きていたい”と思ってくれるのが、私は嬉しいです。
複雑で完全じゃないからこそ、迷ったり苦しかったりするけど、だからこそ大事なモノに気づく事が出来る。
“生きる”って、それだけで実は凄く不安定な事なんだな…と読んで思いました。
太宰氏はもしかしたら案外強い人だったんじゃないかと偶に思います。
訳の分からない事言っちゃってすみません。
投稿者 良湖 : 2010年4月 9日 21:10
こんばんは。
最近、別れとか気温の変化とかが激しくて、だるくてただぼーっとして何だか虚しい気持ちで一日を過ごしていました。
でも、喜安さんの書いた太宰氏の一文で目が覚めました(笑)
一日をたっぷりと生きようと思います!!
投稿者 あひる : 2010年4月15日 23:13