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日の出前

「水仙」同様、救いの無い物語が淡々と綴られる。


「水仙」は、芸術にまつわる心模様を中心に描かれていて、その点における太宰さんの考えが、ほんのり見え隠れするのだが、「日の出前」は、登場人物に、太宰さんの過去の遍歴や、太宰さんが出くわしたのかもしれない誰かの特徴が当て込まれていて、その点で、「水仙」よりも、太宰さんカラーを強く感じる。


家族の足を引っ張り、とことんダメになっていく男に対し、遂には絶望してしまう家族。最後は、その男が家族によって殺められたらしき気配を漂わせて終わるわけだが、そんな家族の行動を描くことは、太宰さんにとってとても自虐的なはずであり、これまでの作品は、それでも資金援助を止めなかったり、もう関わらないと断絶こそすれ、そんな直接殺めるようなことはなかったわけだから、その点、この作品はその自虐度が強いと思う。


日本が戦争に突入しようとする、そんな折に、太宰さんがこういう作品を書いたことは、若かりし日々とはまた違った意味で、生死を強く意識するようになっていたからかもしれないが、どうだろう。


これにて、新潮文庫版「きりぎりす」終了。次は新潮文庫版「ろまん燈籠」!!

2010年3月31日 19:47

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