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秋風記

そろそろ「Do!太宰」のことも話そうかと。


今回の作品、私が台本を書く以外にも、出演者のみんなによって台本にひと手間を加えてもらおうと考えている。


当然だが、太宰治のことを描こうとしている。特定の人物を、それもいくつもの文学作品を残した先達を描くには、私一人の所感をもって臨むのでは心許ない。あらゆる角度、あらゆる温度、あらゆる眼差しで太宰治を見つめ、より立体的でより客観的な太宰治像を舞台にでっち上げたい。そのためには、なるべく多くの、この度ならまず真っ先に出演者の協力が無くてはなるまいよ、と考える。


で、今回は稽古場でいろいろといつもとは違う稽古を行い、そうすることで私からは出てこないなにかを抽出しまくろうと思っているのだが、手始めに、出演者一人一人に、太宰治さんの作品を一つずつ選んでいただき、それを作品のボリュームの長短に関わらず、必ず3分以内にまとめて、みんなの前で発表してもらうという、私がしろと言われたらきっと目の前が真っ白になるだろうことを、やることにした。


一人一作品、出演者が19人だから全19作品。一つの発表が3分で合計ほぼ1時間。たった1時間で太宰治の作品が19作品知れるとは!太宰を読んだことがない人には、なんともありがたい稽古ではないか!私が何ヶ月もかけて本を読んでいる努力は一体なんなんだおい!


そこからなにが生まれるかは、あてにしていない。いや、実を言うとあてにしている(どっちだ!)。正確には、なにも生まれなくてもいいというおおらかさをもって臨むということか。まずは出演者も太宰を読むこと、少しでも多くを知ることが大事なのではないか。発表を見れば、おおよそ誰が太宰派で、誰がアンチ太宰派かを知れるかもしれない。それだけでも、面白い稽古場になりそうじゃないかと思うのだ。


今後も「Do!太宰」の稽古場のことは、いつもよりも子細に、この場で伝えていこうと思っている。この場も、作品の一端を担うことになる。読んでおいて損は無いと思われます。


で、「秋風記」だ。


出演者に一斉に、一人一作品発表してもらいます、と号令を発して、発するやいなや返ってきた返信が、今回初参加、2009年のブルドッキングヘッドロックワークショップに参加してくださって、この度の公演の出演と相成った、菅原功人くんからの “「秋風記」にします。” のひと言だった。


その時点で私はほっとんど太宰さんのことを知らず、知ってる作品と言えば(しかもタイトルだけで内容は全く)、「人間失格」と「斜陽」くらいのものだったので、「秋風記」という作品が真っ先に届いたことに、いささか面食らったものだ。「あるんだ、そんな作品。探さなきゃ・・・。」モワーンとした私だ。今作の、私にまつわる太宰治の最初が、実は「秋風記」だったということだ。


菅原君が「秋風記」を読んだ経験があるかどうかは知らない。それについては稽古場で本人に聞く。しかし、号令を発してすぐだ。少なくともなにかを知っている、これならなにかを発表できる、というなにかしらの計算が無ければ、あんなに早く返信はよこせないのではないか。いったい「秋風記」とは?!


私はいち早く「秋風記」を読みたく思ったが、前の方から順番に読もおぅっと、という私ならではのかたくなさと呑気さのせいで、結局辿り着くのに一ヶ月以上もかかってしまった。あやうく稽古始めに間に合わないかと思ったが、なんとかなった。


渋い、冷たくせつなく、まああいかわらず若干のナルシシズムは感じるものの、とくに物語も終焉間際、ふっと速度の上がる場面は印象深く、なかなかにピリ辛い作品だった。「ダス・ゲマイネ」を思い出すと言えばわかりやすいか、どっちも読んでる人には。全体に薄い墨汁のような情景を思わせる。


そして思う。菅原君がこれを選んだことを。そこを考えることは、菅原君を想像することだ。「菅原君」と「秋風記」。菅原君は、僕が知らない菅原君を多分に潜ませているようだ、あたりまえだけど初参加なんだから。ここにすでに、今作を形成するかもしれない、ヒントのようななにか(曖昧!)が含まれているのではないかと思われる。


すでに多くの出演者が発表する作品を選んでいる。中には、すでに読み終えてここに発表した作品もある。選ぶ作品に、その出演者のひととなりが見える。「へえ、篠原これを、へえ。」とか、「岡山君はそうだよ、これだよな。」とか。私の中で、19人分のなにかが生まれつつある。稽古まであと10日あまり。まだ10日もあるのに「Do!太宰」は、かつてない面白さになってきつつあるのだ。

2010年3月13日 02:18

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コメント

お仕事お疲れ様です。
演劇の稽古は私にとって未知の世界なので、多数ある太宰作品の中から役者さん達が、一作品を選び発表するという試みに興味津々。舞台にどう反映されるか、楽しみです!
しかし、3分とは・・・。短いようで長い(笑)。

投稿者 りか : 2010年3月16日 21:08

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