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喝采

毎月一度、世にも幸福の物語を囁き交わさんという趣旨のクラブ。幸福クラブ。なかなかに気色の悪いクラブである。仮面をつけた紳士淑女をイメージする。アイズ・ワイズ・シャット的な。あの頃のニコール・キッドマンはよかった。今はなんかもう大物感漂わせすぎて。いや、そんなことはいいとして。


一番手の語り手として、細々と生きている小説家が登場、幸福クラブに到底ふさわしくない現状を露にしつつ、作家の友情について語り出す。


まだおおよそ折り返しに至らぬ程度にしか読んでない太宰作品だが、いよいよその、ひたすら自分のことを手を変え品を変え表現してみせる手管に敬服する私だ。


友人への謝辞を小説に落とし込む、その現実と虚構の混濁具合が、良い。加えてそれが、今現在のどうにもならなさがあればこその、かつて自分を支えてくれた友人への思いということであれば、一般的にも感情移入しやすく、その前に読んだ「創世記」が大変だったこともあって、印象が良い。比べるもんでもないのだろうが仕方がない。


なんとも気色悪いクラブにおいて、どうやら本来のクラブの趣旨と微妙に違うのではないだろうか、苦しみの奥の埋もれかけた幸福をがさごそと引きずり出してくるその無様な様子は、自虐的で皮肉的で、やはり大変な時期の作品なのだと思わせるけれども。

2010年3月 6日 19:27

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コメント

私はクラブと名のつくものは全く分かりませんけど、うーん…って感じでした。

人に対する感謝を織り込んでいた部分は、少し考えさせられました。
なんて言ったらいいのか自分の中で軽くとっちらかってる感があるので、三度目を読んでゆっくり整理つけたら感想書きます。

投稿者 良湖 : 2010年3月 9日 20:57

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