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狂言の神

昭和10年に起こした鎌倉での自身の自殺未遂体験を扱っている。何度目だったか、何度目かの自殺だ。で何度目かの未遂だ。


「笠井一」という人物が就職試験に落ちたことを理由に縊死したことを、「私」という作者が語るという仕組みになっているのだが、太宰さんそれを途中で投げだして、笠井とか言っちゃってるけどこれ私自身のことですと言い始める。で、そこからは虚々実々、どこまでがほんとの体験で、どこまでが装飾されたものかわからない、アイロニカルな調子と心地よいテンポで太宰さんが自殺するまでが描かれる。


自殺の話が心地よいテンポッてのもどうかと思うが、実際読みやすく、おかしみも多い。太宰さん、笑い泣き。


ナポレオンに似た女とホテルで一晩過ごしたり、酔って見ず知らずの客とデタラメな会話をしたり、死ぬけど金のことは一生懸命勘定したり、死のうと思って辿り着いた江ノ島の海岸が入っても膝小僧を濡らす程度の浅さだったからやめたり、雨宿りする女学生に気持ちが揺らめいたり、鏡に映った自分の顔を「キリストそのままであったという。」と言ったり、無苦痛だしかなりの高確率で死ねると人から聞いていた縊死(首つり)を選び、でも実際やってみたら凄い苦しいし全然死ねないし、やがて「やめ!」つってやめちゃうし。


ダメすぎて。


おかしみは、或るギアが入らないと思いつかない反面、常識的、客観的な状態をいくぶんか自分の中に保っていなければ描けないと思っている。鬼気迫った状態でみせられたおかしみは、おかしみなんだけどやっぱりおかしくはないというか笑えない。その点、これを書いた時の太宰さんは、少々普通の人状態であったのだろうと思う。心中自殺の後日談を描いた「道化の華」にも似たような客観性を感じたので、なんか一回死のうとした後ってスッとすんの?と思うのだがどうなのだろう。


ふと考えるのは、一番最後の自殺、成功しちゃったやつ、玉川上水で。あれが失敗してたらどうしてたのかね、またなんかそれにまつわる本を書いたのかね、ということだが、まあその辺のことは「人間失格」の先、まだまだずいぶん後で考えることかもしれない。

2010年2月28日 16:23

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コメント

今日も1日お疲れ様でした。
狂言の神は本当に自殺の話なのかなぁ…と思える程にテンポよく話が進んでくれた上、何気に描写が掴めてくれたのが有り難く感じました。
太宰氏らしく、ダメダメでグダグダで、でも凄く人間らしくてやっぱり太宰氏は色んな意味で凄い人だと思います。
でも、この話アタマを使って読もうと思うと一番気になるのはナポレオン似の女性…ナポレオンに似てる女性って、どんな女性なんだろう…って考えると微妙にクスっと来るんですよ、私。
狂言の神も結構色んな所に突っ込みを入れながら読めて楽しかったです。

後、2日分纏めちゃってすみません。
ミキサー便利でいいですよね。私は家事担当なんですけど、今年の頭に父がプレゼントしてくれたんです。
時間が短縮出来て本当に楽になりました。

今日は浩平さんにとってどんな1日でしたか?
楽しい1日になりましたか?
明日が浩平さんにとって素敵な1日になるように願っています。

投稿者 良湖 : 2010年3月 1日 20:21

この人は、実は普通の人間だと思います
病んでるんですかね、本気で死のうとしてるとは思えないんです
何度も死なないから、感覚が麻痺して
本当に死にたい時に死ねなかったんじゃないかと思います

しかし太宰は読めない字が多い…(頭の問題


退却

投稿者 真優 : 2010年3月 1日 22:16

喜安さんこんばんは!
笠井一さんはどこに?という疑問も、まぁいいかと思えるテンポの良さで、自殺しようとしている話なのに、妙に軽快であまり深刻に感じませんでした。
気の利かない死に方だと後悔しつつぶらさがっていたのに、自分が河豚づらになっている事に気付いたとたんやめちゃう太宰さん。
カッコ悪いのは苦しいのよりも我慢できなかったんですね。

投稿者 りか : 2010年3月 2日 00:18

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