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新潮文庫版「走れメロス」を読み終わり、続いて、新潮文庫版「晩年」に着手。


「走れメロス」には、主に、絶望から立ち直り始め、やがて生活が順調に回り始める頃の太宰さんの作品が収録されていた。ので、推察だが、本人も幾分穏やかな心境だったのではないか、初心者にも読みやすく思える作品が多くあるように思えた。また、「東京八景」が収録されていたおかげで、上京後の太宰さんの堕落した生き様を、大雑把ではあるが知ることができた。といった理由で、最初に「走れメロス」を選んだのは正解だったかもしれない。


で、次に読むのは、太宰さんの処女作品集である「晩年」だ。「東京八景」によって知った太宰さんの生涯前半の流れを、作品に沿ってさらに追っていこうというわけだ。


自殺を前提に、遺書のつもりで書き始めたのが、自身初の作品集、「晩年」だそうだ。遺書が作家としての出発点というのが、まだ太宰さんをよく知らない私にも、なんとなく太宰的だなぁと思わせる。


実際には、同じく新潮文庫から、「地図 初期作品集」というのも出ていて、そこには「晩年」よりさらに以前のものも収録されているのかもしれないが、その辺はまだよく知らない。そこはおいおい知っていくこととし、やはりここは処女作品集だ。


今回は収録順ではなく、巻末の解説と照らし合わせ、発表時期の早いものから読んでいくこととする。と思ったのだが、最初に収録されている「葉」という作品が、発表時期は他のものより遅いのだが、「晩年」以前に書いた初期作品群の中から、捨てがたいフラグメント(断片)を選び出して配列したものだと解説に書かれていたので、「葉」から読み始めることとした。


で、「葉」だが。


断片の配列だ、という前知識があったから戸惑わずにすんだが、なにも知らずに読み始めたらなんのことだかわからないだろう、まさに断片の配列だった。合間合間に挟まれる一行程度の断片は、とりわけなんのことだかわからなかったりするが、ある程度のボリュームで提示される断片については、すんなり読める。わけがわからないものだと思って読めば、全体も楽しめる。深く感じ入る、とまではいかなかったが、その印象は読む度に変る気もする。


考えるのは、わけのわからないものを公にする作家の強さか。あるいは鈍感なのか。批評の目にさらされるという点では演劇も文学もなんら変わらないが、演劇でわけのわからないものを作る時のリスクは、主に経済的な面でデカい。多くの人を巻き込んでしまう。その点、小説は作家一人のものだし、まあ出版社に迷惑をかける可能性はあるだろうが、「葉」が掲載されたのは同人誌だそうだし、だから幾分軽やかにできたのだろうとも思う。知らないで言っている、そんな軽やかでもないとしたらごめんなさい。


まあ、太宰さんに限っては、いずれ死ぬつもりだったのだから、リスクもへったくれも無かったのかもしれないが。


死ぬ気がなくとも、経済的・評判的にどうであろうとも、よその人が見てもよくわからない自分だけのお気に入りをドーンと見栄きってお見せできる面の皮の厚さが、ありたいものだと思ったという話です。 

2010年2月 1日 23:13

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コメント

喜安さんおはようございます。
そしてご無沙汰です。
物語を読む時間がある喜安さんがうらやましいです!
しかし脚本もやられる喜安さんにすれば物語をよむのは当然かもしれないですね。
これからも色々な本を読んでいい脚本をいっぱい書いてください。

投稿者 ごろう : 2010年2月 2日 11:23

今日もお疲れ様です。
「葉」は私はあまり好きではありません。
太宰氏的には評判はどうでも良かったかも知れない、それは私も一瞬考えました。
でも何だか、あんまり過ぎるような気がします。
まぁ、学生の頃に読んだところで大人の思いも解らないから仕方ないかも知れませんけど。
今もう一度読んでみたら違う断片を見つけられるかな。
もう一度読み返してみたくなりました。

投稿者 良湖 : 2010年2月 2日 15:35

喜安さんこんばんは!

何だか、最後の文章を読んで、昔みんなに理解してもらえなかった戯曲を完成させようかと思いました!

喜安さんの文章に泣きそうになりました!笑

途中まで書いて見せたら、ほとんど全員一致でボツになった戯曲です。

でも、書いてて凄く楽しかったんです!ナンセンスコメディです(笑)

他人の目を気にすることなく、思うままに…。

投稿者 あひる : 2010年2月 2日 23:42

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