タイトルを決めよう【最終回】

間が空いてしまいました。

 

前回、せっかく決めたはずのタイトルを変更すると決めたところまでお伝えしましたが、今回はその続き、タイトルについての最終回です。

 

「ブループリント〜108の建設と解体に関する未完の構想〜」

 

いったんは、以上のタイトルに決めたつもりで、デザイナーのオカイさんにも手を動かし始めていただいておりました。それをひっくり返したのは、前回にも書いたように、「なにこれ?」が足りないように感じたからです。

 

タイトルを決める際、私は、手書きでメモにそのタイトルを書き出す以外にも、メールの文面に打ってみる、まだ聞いたことがない人に口頭で伝えてみてその反応を見る、などの試行を重ねます。タイトルは、チラシやウェブ上にデザインされたロゴとして表記されるだけでなく、俳優がご案内のメールを打つ際の文面や、「今度◯◯という演劇をやります」と話すように、デザインされない部分でもたくさん行き交うことになります。むしろそこで興味を持っていただけないと、チラシやウェブにも辿り着かない。

 

もちろん、あたるタイトルなんて私には到底わかりませんし、最後の判断基準は、私の気持ちがグッと動くかどうかでしかないのですが、それにしても、できるだけ遠くまで歩き回ってくれるようなタイトルであるよう、さまざまな根拠を検証するのは必要なことです。

 

今回で言うと、そもそも私一人が作劇を背負うわけではなく、あえて劇団員みんなで脚本を開発し、新しい劇団のスタイルを表明し、その模索を観客と共有しようとしている。そんなコンセプトがタイトルに込められている必要がある。コンセプトに興味が向かうような仕掛けが必要です。今作に限って言えば、喜安がなにを作るか、なにを描こうとしているかではないわけです。なのでタイトルには、私の手から少し離れた言葉が選ばれた方が良いと思いました。いや、劇団員の誰からも、かもしれない。まだ形のないもの、誰もがどうすればいいのか頭をひねらざるを得ないようななにか、感覚的であり、だけど触れられそうで聞こえそうな、なにか。まだ見ぬ、ロマンのようなもの。それらをタイトルに込めたかったのです。それが「なにそれ?」を生むのではないかと考えました。「なにそれ?」となれば、「これこれこういうことを今考えているんですよ」は、きっと聞いていただける。

 

「ブループリント」は実にスマートな響きですが、「設計図」と訳せばそこまでで、あと少しな気がしました。そこで「変な設計図」にできないかと考えました。「変な設計図」ではあまりにそのままなので、「ブループリント」は活かしつつ、そこに装飾を加える。そでこまず、すでに決まっている言葉について考えました。設計図とは何かということです。そしてその言葉を演劇のタイトルに使用する効果とは。

 

短絡的なところかもしれませんが、最も気になるのはやはり、設計図は平面で、演劇は立体であることでした。2次元と3次元。我々は、3次元に設計図を引こうとしているのではないかということです。そして、そう言葉にした時、そこに、夜空に新しい星座を見つけるような、ときめきを感じました。今のテクノロジーに、立体図面を描くことはさほど難しいことではないでしょう。ですが、演劇の、観客とその空間を共有するための図面はどうなのだろう。空間に見えない図面を引くのです。誰もが、星座を見るように、そこになにかを見出すのです。

 

いや、むしろ演劇は単なる立体ですらないのではないかとも思います。私の、あるいは誰かの記憶を掻き立てることだってある。そもそも過去をそこにあるかのように表現してしまうこともできる。4次元に手を突っ込む装置が演劇でもあります。いや、それ以上の何かに触れる時すらあるかもしれない。

 

私は科学者でも哲学者でもないし、感覚的なところでしかものを語れない浅薄な人間です。だから書いていて、ナンジャラホイと自分でも思うわけですが、4次元のもっと先があったっていいし、それに挑めるのが演劇だと思ってもいいじゃないか、と考えます。まさにロマンです。

 

つまり、我々の引こうとしている設計図は、まだ見ぬ次元に挑むための、まだ見ぬなにかを開発するための変な設計図であると。という思考の流れから、「超次元」という言葉を思いつきました。ただ、ここでやはり、文字をメールに打ってみて気づくのです。

 

これ、マスクになかったか?

 

実際には、「超快適」だったり「三次元」だったりするわけですが、なんか、あってもおかしくないと思わせる響きでした。「超次元マスク」。ありえます。というわけで早々に「超次元」やめることにしました。でも、「次元」にはもう少しこだわりたい。ので、ここでも英訳に挑みます。厳密にはそれっぽい響きを探しただけで、正確な訳にはなっていないのかもしれませんが、なにしろ軸は「ブループリント」です。前後にも英字がつくのは自然なことでしょう。そうして、そうしてようやく、「オーバー ザ ディメンション」に辿り着きました。

 

「ブループリント・オーバー ザ ディメンション〜108の建設と解体に関する未完の構想〜」

 

長い。長いタイトルになりました。ここで考えることはたった一つです。

 

「もっと長いとどうなんだろう?」

 

もっと長くしてみることにしました。それがいいかどうかは、まだわかりません。でも、長いから短くしよう、はまだ考えるときではないと思いました。“もっと”の方を考えて、本当にダメなら戻ればいいのです。それこそ、建設と解体のように。

 

で、メモを遡ります。メモはこういう時にありがたい。たしか、オカイさんがこうおっしゃってた。…………「「コンストラクション ダイアグラム」というのもありますね。」………「「工事中」は「アンダーコンストラクション」」ですね………(皆さんの脳内で反響させてください)。

 

『タイトルを決めよう』の第一回でオカイさんがそうおっしゃっています。ご確認ください。

 

私もつぶやきます。コンスト…………、文字にしてみます。

 

『コンストラクション ダイアグラム・オーバー ザ ディメンション〜108の建設と解体に関する未完の構想〜』

 

長い!長いですね!ただ、何度も「ブループリント」と「コンストラクションダイアグラム」を口に出して言ってみたのですが、口に気持ちがいいのは「コンストラクションダイアグラム」の方なんです。こればっかりははっきりしている。「コンストラクションダイアグラム」。スムーズに言えた時の気持ちの良さはやはりこっちです。言えなくても全然いいんですが。でも、グッときている自分がいることを、私は見過ごしませんでした。

 

直訳すれば、「設計図面、次元を超える」です。その時の思索の断片もメモにあります。以下がそれです。

 

四角く囲っていることから、こっちでいく、という意志を感じますね。そして、上半分の方で、次の思索が始まっています。サブタイトルも調整したいようです。そこで、幾つかの候補を書き出すことにしました。それが次です。

 

 

やや気が狂った感じがいたしますが、なにしろ全部書いてみる。書いてみて、含まれる意味と、文字の持つデザイン性とを比較します。

 

「解体」と「破壊」を比較しました。それは、先のページにあるようなビジュアルをイメージしていたからかもしれません。より、直接的な表現もありか、試したわけです。「未遂」「未完」「不毛」も比較しています。「不毛」や「未完」よりも、これを経て遂行に移るかもしれない「未遂」が最も前向きな気が致しました。「未踏」のなんてのもありましたが、それはこれから描き出す作品を思った時に、正確ではないように思いました。さらに「構想」か「妄想」か。「妄想」ではない、これは実現する何かだ、と思ったので、「構想」を選びました。そうして…………………、

 

『コンストラクション ダイアグラム・オーバー ザ ディメンション

〜108の、建設と解体を繰り返す未遂の構想について〜』

 

 

となりました。長いよ。と言われることは当然わかっているわけですが、なにも思われないよりよほどいい。実際、年明けにはSNS担当の劇団員、藤原彩花より、ツイートが大変なので公式に略していいですか?と相談されました。そしていくつかの略語の候補が出され、劇団員みんなで投票することになる、というなんともバカバカしい流れが生まれるのです。せっかくあるタイトルを、必要に迫られて自ら略す。なら最初から短くしろよ、と思われるでしょうが、どう略すかについて劇団員が真剣なのも、今作ならではです。

 

『コンスト』

 

になりました。短いですね。

 

もう迷いはありません。改めてオカイさんにタイトルを伝えます。メールで伝えました。正確に、一文字一文字確認して。命名です。

 

そこにはもう、愛がありました。遠くの誰かが、「なんだおまえ?」と思ってくれたら、そんな嬉しいことはありません。

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ブルドッキングヘッドロック Extra number

コンストラクション ダイアグラム・オーバー ザ ディメンション
~108の、建設と解体を繰り返す未遂の構想について~

2017年4月16日(日)~22日(土)
全12ステージ
@下北沢 小劇場B1