« 二十世紀旗手 | メイン | 勝負はここから »

HUMAN LOST

精神病院に入院させられた太宰さんの、入院させられた恨みとか哀しみとかが日記形式で綴られる。


「妻をののしる文」とか、「私営脳病院のトリック」とか、「(壁に。)われよりも後に来るもの、わが死を、最大限に利用して下さい。」の「(壁に。)」とか、「誰も来ない。たより寄こせよ。」とか、怒ったり悲しんだり寂しくなったり、日々気持ちが上り下がりしていて大変だが、かわいそうと思うのも違う気がするし、なんなのか、なんと思えばいいのか、だんだんわからなくなる。


なんとも思わぬわけにはいくまい。いくまいが、なにを思ったとしても必ず太宰さん本人の思いとは食い違う気がする。食い違うしかないのだ、きっと。私が太宰さん同様、薬に溺れ狂ったとしても、やはり考えは食い違うはずだ。で、今のとこそこまでわかりやすくダメではない私は、やはり太宰さんと食い違うはずだ。人と人は大なり小なり食い違う。


人とは孤独であると思う。人には、その孤独に気づかず生きていく術がある。気づいてなお生きていく術がある。その中にも何パターンかの選択肢があり、それによって人は千差万別だ。あとは死ぬという術がある。


なんせ生きるか死ぬかしかない中で、偶然か意識的にか、この時点では生きる方を選んだ太宰さんだ。そして小説を書くことを決意する。生きてモノを作る。そのことを選ぶ点で、ようやく私と太宰さんは食い違わない。ごめんなさい横並びにして、レベルは全く違えどもでーす!


退院の日。これからこうします、ということがとても前向きに書かれている。が、その前向きさがなんだか不安にさせる。急にちゃんとされると不安だよ太宰さん。そういう人を、自分を含めよく見るだけに、なんともはや不安だ。ダメな人ほど前向きを語るよ太宰さん。


まあ、やがて来るこの人の結末は知っているので、心底心配することはない。以上。


はい!これにて新潮文庫版「二十世紀旗手」読破!ふいいいいいいいいいいす!


「HUMAN LOST」の最後の希望的な幕引きに、ダメな人ならではの不安を感じはしたものの、この後、太宰さんはジワジワと社会復帰を果たしていく。で、新潮文庫版「走れメロス」に収録されている、どこか優しげな口当たりの作品を世に出し始める。「満願」とか「富嶽百景」とかね(もはや懐かしさすらある!)。少しは読む側を楽にさせてくれるだろうか。この後もいろいろあるようだけど、私生活でも。


すでに次の文庫に突入している。新潮文庫版「新樹の言葉」。まだ幾分ゆらゆらとした印象はあるが、本人の変化が反映されてか、希望の気配が漂っている。それを読み終わったら今度は新潮文庫版「きりぎりす」。その後も、「津軽」、「右大臣実朝」、「ろまん燈籠」、「お伽草子」、「斜陽」、「パンドラの匣」、「ヴィヨンの妻」、「人間失格」、他にもいろいろ。むしろ太宰と言えば、みたいな作品がこの先にわんさか控えているわけだ。それらを読まずして Do!もなにもないだろう。


果たして私は稽古始めまでに、遺作「グッド・バイ」まで辿り着けるのだろうか。

2010年3月 8日 19:31

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.bull-japan.com/mt/unkospam.cgi/2951

コメント

まず、「二十世紀旗手」読破おめでとうございます。

HUMAN LOSTは結構頭を使いながら読んでました。
頭にくる時、悲しい時、苦しい時、寂しい時、人は案外2つの事を同時に思ってるんじゃないかと思ったんです。
これらには共通する部分があると思うんですよ。
自分独りでは収集つけられないと知りながらも自分が感情に飲み込まれてしまって、人が傍に居てくれる事を忘れてしまうと言うか…すみません、いつもとっちらかってて。
だからあの病院での太宰氏って異常なんですけど、ある意味で正常に思えてしまって仕方ないんです。

私も会社で結構、人からお手紙を頂いたりします。
落ち込んでたり悲しかったりした時、たった一通の震えた文字で書かれたお手紙に救われています。
人は孤独を感じるからこそ、人のむけてくれる優しさを感じられたり、人に優しさを向けられたり、するんじゃないでしょうか…。
偏にそういう人ばかりじゃないとは思いますけど…。
支離滅裂な事言ってすみません。
頭悪すぎて、いつもとっちらかっちゃうんです。

今日はどんな1日でしたか?
楽しい1日でしたか?
明日が浩平さんにとって素敵な1日になるように願っています。
寒さがぶり返しています。
体調崩さないように充分気をつけて下さいね。
暖かくして、ゆっくり休んで下さい。

投稿者 良湖 : 2010年3月 9日 21:39

こんばんは!
お疲れ様です☆

ダメな人ほど前向き…納得です。私も無駄に前向きです!
何やってもダメだし、取り柄もないから、もう開き直って前向きになってます!!

前向きが取り柄です☆

だけど、私は太宰さんとは違います…。何かよくわからないけれど、違います。笑

残りの作品を、稽古前までに読み終われるよう、応援してます!

投稿者 あひる : 2010年3月 9日 23:20

喜安さんお疲れさまです!ゴールはまだまだ先という所でしょうか?
無理せず続けて下さいね。
二十世紀旗手最後の作品は精神病院に入院した事をきっかけに、人間の資格を奪われたと思ってしまった太宰さん。恨み、哀しみを叫んでいるようかのような内容ですね。
とても迫力がありました。入院はご本人は不本意だったのでしょうけど、 周りの人は真剣に太宰さんを立ち直らせるため苦労したんだろうなぁと思うと、若干そちらに共感してしまいました。
月並みですが、やっぱり人間一人では生きられないと思うので。

投稿者 りか : 2010年3月10日 02:45

コメントしてください




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)