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猿面冠者

のっぴきならぬ状況に陥った主人公が、それを打開するために小説を書くことを決心するが、ちっとも書けない。というお話。冒頭から、こんなやつに小説が書けるわけがないとネチネチ書き連ねている。


太宰さんじゃん。まあ、遺書の一部なのだからそうか。書けない者の理屈が、自虐的な蔑みでもって描かれていて、私も一応作家の端くれなので個人的に身につまされた。


が、どうにもコメディのように思われるくだりが多く見られ、滑稽でもある。まさに猿面冠者。無様で笑える。本人も笑うしかなかったのではないかと考える。


一念発起して小説を書き始めるが遅々として進まぬ前半と、そんな主人公をそんな主人公たらしめた若かりし日の出来事が描かれる後半。その切り替えの切れのよさが気持ちよい。そして、実際に主人公が小説の中で描こうとしていたアイディアと、若かりし日の主人公を結びつけ、最後には巧みに着地してみせる。そういう気の効いた感じに持っていくところが、なんと言うか、潔くないと思う。もっと無惨なことにしてしまってもよかったような気がするのだがどうだろう。


どこまで行っても書けぬ主人公とは、やはりご自身のことだと思われるが、まあ結局のとこ書けてるわけだものね。


ただまあ、自意識の濃さをこれでもかと曝け出している点において、いいかげん見せられ続けているうちに、たいしたもんだという気分になってきたよ太宰さん。

2010年2月 6日 00:04

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