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まばゆい空

 昨日の話しになります。


 関東地方を襲った明け方の雷雨は本当に壮絶で、その時間にまだ起きていた私は、久しぶりの停電を覚悟しつつ、ぼんやりとアレコレをやっつけておったのです。そして数分後、雷が近くの公園の木を直撃したのではないかと思った刹那、部屋は見事に漆黒の闇、予想通り停電となり、私は結局、アレコレどころかなにも出来ないありさまになってしまったのでした。


 というわけで、まだ眠りにつけそうもなかった私は、しばし暗闇の中、横にでもなってぼさーっとしていることにしたのですが、たびたび打ち鳴らされる尋常ならざる音にふと東の出窓を見ると、そこに映る雷光と枝葉の陰は、まるでドラマのワンシーンを再現したかのような陳腐さで、それを見た私は妙に冷静な気分になり、ああほんとに激しい雷がかすめるとお芝居みたいな感じになるのだなと、どうでもいい感想を抱きつつ、ゆっくりとベッドに横たわったのです。

 それからどれくらいでしょう・・・。しばらくじっとしていたのですが雷の勢いは衰えるどころか増すばかりで、とうとうしびれを切らしてしまった私は、凄いな、とつぶやきながら玄関まで出て外を覗いたのです。すると薄暗い空いっぱいに、絶え間なく注ぐ愛の名、違う、雷光が溢れかえっており、それはそれは壮観だったのですが、それよりなによりあれはいったいどうしたものでしょうか、大型の台風が来た時などもそうですが、妙にテンションが上がってしまってしかたがないのです。ドアを開けた瞬間、「うわー!」と叫んでいる自分がいました。夜中、住宅街の真ん中にもかかわらず。でもしかし、そんな風にテンションが上がっている自分をかえりみ、ああ、まだそういうことでテンションが上がるくらいの若さは持ち合わせているのだろうかと、逆に冷静に思う私もいて、その相反する二つの感覚が同居する感じはなんとも不思議なものでした。気がつくと私はパンツいっちょでした。慌てて部屋に戻ったのですが、幸い、外を出歩く者は一人も見られず、だから私の姿も誰にも見られなかったはずです。


 それから数分後、停電は復旧し部屋中の家電製品が息を吹き返したのですが、そこで気づくのは、いつも真っ暗にして寝ているつもりでも、部屋というものはそうとうに明るいのだなということで、見渡せば私の部屋には様々な電化製品が配置されているのです。あかるい。こんなに部屋のあちこちでかすかな光が瞬いているものかと、私は再びベッドに横たわりながら、やはり冷静な心境で、都会の夜の静けさを楽しんだのでした。


 そしてふと思ったのです。この感覚はなにかに似ている。それはすぐに思いつきました。


 花火。


 夏の夜空にうちあがる花火、それを見上げる感覚です。花火大会の、あの見上げる時の期待の眼差し、炸裂するたびに沸き立つ血液、わけもなく張りあげたくなる声、そして事が終わった後の名残惜しさと夜風の涼しさにも気づける心の穏やかさ。それらは花火を見物した時の感覚に近いのではないか。そうだ、あれは花火なのだ!・・・そこまで考えた私の頭に、かすかな疑問がよぎりました。待てよ、するとあの時見ていたあれは雷ではなかったのではないか。そう、花火だったのではないか。私は花火を見ていたのかもしれない。そうだ、真夜中、私は花火を見ていたのだ。あの光と轟音に気づいた者がどれほどいただろう。寝ていた者のなんともったいないことか。私は夏の終わりの最高のパフォーマンスを心いくまで堪能したのだ!!


 ・・・ふと気がつくと私はベッドの上。時間は正午。外にはうす曇の空。いつの間に眠りについたのか。ゆっくり頭を持ち上げ考える。昨日の夜、玄関まで出て空を見上げた私は、本当に本当の私だったのか、それとも。全ての記憶が曖昧で、だからあれが雷だったのか、花火だったのか、もはや判別すらつかず、ならばきっと花火だったのだと思うことで、私はまたひとつ夏の思い出を増やしたのでした。

 
 TVのお天気コーナーを見ると秋の長雨だと報じていて、季節の移りかわりは止めようもありませんが、深夜の出来事に夏の勢いを感じとり、心沸き立つ思いができたことは少しだけ幸運なことです。


 夜更かしもたまにはね。

2006年9月12日 16:28

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コメント

喜安さん、こんばんは!

今日の日記は掌小説みたいですね。世界が一つ出来上がってるかんじ。とても面白かったです。

投稿者 七尾 : 2006年9月12日 19:01

喜安さん 今晩は。

雷を見て妙にテンションが上がる・・・。私もそうです。
家の中だと ゴロゴロ ピカッ が恐くなくて むしろ楽しんでいる私がいます。
本当に自分に落ちてしまうと 命すら危ないのに・・・。

花火かぁ・・・そうとも言えますね。いつも喜安さんの文章力に憧れます。私は読むのは好きだけど 書くのは苦手です。喜安さんのブログの書き込みで 「ん?」と思われるようなこと 沢山書いていると思います。なかなか思うように上達致しません。それでもこうして 書かずにはいられないのは何故でしょうね?
  喜安さんが好きだから・・・ファンだからですね。アハッ。

やはり長文は喜安さんらしく パワーが感じられ私もパワーアップできました。いつも元気をくださりありがとうございます。それでは また。

投稿者 コデマリ : 2006年9月12日 19:56

喜安さん、みなさんこんばんわ☆
喜安さん、宮沢章夫さんのように小説やエッセイをお書きになっては?血尿覚悟で(笑)文章はもちろん、表現のなんと見事な……引き込まれてしまいます。喜安さんのファンになったきっかけが、このブログ、文章なので…前にも書きましたが舞台好きの友人がこのサイトを教えてくれて…喜安さんの虜になってしまった訳です(*^-^*)そんなんで「作家」喜安浩平さんが誕生する日も近いかなぁ(笑)

こ…浩平さん…

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ(≧▽≦)!!(名前で呼んでみて興奮)
雷ファンタジーは私もそうなんでわかります☆すごいどしゃぶりの雨の時に、衝動的に外へ出たくなるんです。高揚する気持ち。押さえられなくなる感情。自然と一体化したいと感じているような…

喜安さん、夜更かしして身体を壊さないで下さいね☆では、おやすみなさい。
(^з^)-☆Chu!!

投稿者 トモ : 2006年9月12日 22:02

キヤス隊長、こんばんわ!
日本海側も凄い雨ですよぉ~(^0^)/!!!停電はちっとしたイベントだと思っとります(ちょっと怖いケド)。家の中でキャーキャー☆ワーワー★アトラクション気分みたいでテンション高↑。。。なんて不謹慎(-.-;)ですね。。。
最近どーも夜更かししすぎで目の下のクマがとれなくて困っとる(ー'`ー;)ゆかりどんでした!美容と健康の為に早く寝なければ!!
それでは、おやすみなさぁ~い(v_v)zzz。。。

投稿者 ゆかりどん : 2006年9月12日 23:15

普段はブログの中からキーワードを拾って
それに自分の体験とか考えとかをプラスしてコメント作っていくんですが、
今日のはなんかそれがはばかられるような感じがしました。
小説みたいだからでしょうね。
無理やり表題をつけるなら
「終わっていく夏の最後の輝きと1人の男の小さな喜び」
なんじゃないかな、と読解力のない頭を絞ってみたわけで。
(ちなみに文章力もないので喜びに変わるいい言葉が見つからず・・・。
福井晴敏さんならどんな言葉を使うかな。)
相反するもの、ってのもテーマのひとつになってるのかな。
闇と光。夜と朝。子供と大人。自然現象と人口物。
なんか・・・、難しいッス。笑

投稿者 ユウキ : 2006年9月13日 00:17

喜安さん こんばんは

今日の日記…小説のようですね。その光景を想像しながら引き込まれていきました。

ん~停電に雷…確かにテンション上がりますね!あと台風とか(*^_^*)でもパンツいっちょうって…喜安さんの興奮ぶりがわかりますね( ̄ー+ ̄)ニヤリッ


明日、医者に行って“OK”が出たら明後日より仕事復帰です!腰がというより体が思うように動かせない事がこんなに辛い事とは思いませんでした。喜安さん体には本当に気をつけてお仕事頑張って下さいね。
では、おやすみなさい(-.-)zzZ

投稿者 あけみ : 2006年9月13日 00:51

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