『役に立たないオマエ』出演者名鑑

小島聰

小島聰

「私の高校時代」

私立の男子校に通っていました。

近くに共学の県立高校がありました。

駅からの通学路は概ね坂道で、住宅街の小道を抜けると県道脇のそんなに広くない歩道へと続きました。
そこをその県立高校の学生と一緒になってテクテクと20分以上歩くのです。

仲間と一緒に登校中、ある友人が、「気になる女子高生がおる」と、「あの子や」と、その子の後ろ姿を指差して教えてくれました。
前を行く県立高校の制服を着た3人組だか4人組だかもう忘れちゃいましたが、なんか複数で歩いていた女の子たちのひとりがお目当てのその子だと言うのです。

正直、あまりかわいくなかったのです。綺麗でもなかったのです。
何となく誰かが、「蓼食う虫も好きずき」と、こぼしました。
それ以来彼女は僕らから「タデ」と呼ばれることになりました。

「今日タデおらへんな〜」とか、「タデ、背ぇ高ぁ〜」とか、「昨日の帰り道、タデが男と歩いとった」とか、そんな会話が坂道を行く僕らの間で交わされる日々が続きました。

結局、その友人も「タデ」への想いを本人に伝えることなく、いつの間にか「タデ」熱は僕らの間で冷めていきました。

年頃の女子を「タデ」と呼んでいた僕ら。
「タデ」と呼ばれていることも知らず笑って登校していた彼女。

僕の高校時代は、そんな感じが断続的に起こる日々でした。

小島でした。