猪爪家の長男に生まれ、猪爪の性を引き継ぐ尚紀くん。
でも、親父は次男です。
親父のお兄さん、僕のおじさんは独身です。
『一世一代』とはどういうことだろう?
そんなことはどうでもよくて、
僕の人生を大きく変えたのは、中学3年の春休み。
姉の計らいで、春休み初日から二つ年上の姉のバイトしているパン屋の隣の『焼き鳥屋』で働くことになっていました。
後に分かったことですが、姉がバイト後によく焼き鳥をもらっていた為、その交換にと僕が差し出されたようです。
わけも分からず連れて行かれ、いつの間にか『焼き鳥の技』を伝授され、
高校に上がる前には、僕はいっぱしの『焼き鳥屋さん』になっていました。
中学三年にして、塩の軟骨の旨さや、砂肝の歯ごたえを楽しめる。
もも肉も「養殖」か「地鶏」かの目利きもできるようになり、
店長秘伝のたれの仕込みも教わりました。
店長曰く、『焼き鳥で通ぶって塩で頼む人もいるけど、本当の旨さはタレで分かるんだぞ、ナオ!』
心を鷲掴みされたような衝撃を受けました。
10代半ばにして、『真理』を垣間見た気がしました。
将来が決まりそうな予感はしました。
が、
でも、あっさり高校二年の時に辞めてしまいました。
焼き鳥は好きでも『焼き鳥屋さん』になる気はなかったようですね。