とぐろ
スパイシージュースHOTチラシ  
とぐろと僕 喜安浩平

 夜、ひと気のない真っ暗な路地。ゆっくりと息を吐くたび、温く澱んだ湯気が白く立ち昇る。僕にはそれが、体内の毒素かなにかが溶け出ているんだと思えた。だから僕は、目の前の女に気づかれないよう慎重に、何度も何度も息を吐き続けてみたんだ。
 昼間の陽気は春の訪れを確信させ、僕の住む町にも浮かれた連中が続々現れ始めたのだが、夜はまだまだなかなかどうして驚くほど冷たく、そしてとても静かだ。前を行く会社帰りだろう、ファー付きのコートに身を包んだ若い女の、リズム良くアスファルトを打ちつけるヒールの音だけがやたら大きく聞こえてくるのも、そういう季節だからかもしれない。
 僕が駅前に立って三時間ほどしてようやく目星をつけたその女は、コートを着ていてもうっすらと尻の形の良さが伺え、背筋も伸び、はりのある髪を一つにまとめあげて颯爽と歩いている。僕に言わせれば、そんな彼女は肉食獣の風格。ファーはたてがみ。ヒールの音もひどく凶暴。きっとやばい女に違いないんだ。
 僕は、右手に握った鈍く光る鉄のモノに力を込めた。心臓の音が漏れるのではないかと思い、息も止めた。そして足早に女に近づく。女は気づかない。もうすぐだ。一撃食らわせたら猛ダッシュ。大丈夫。そのために毎日走りこんできたんじゃないか!

 その時だ。女のケータイの着信音が鳴り響く。出る女。

「あ、ヒロコ?あははは!!うん、うん、あはははは!!うそお?マジキモいんですけど!!あはは!!あは、あはははははははは!!!!!」

 おかまいなしなんだ。僕はなんだか恐ろしくなって足早にその女を追い抜いたんだ。
推薦文

 ブルドッキングヘッドロックは15人もの役者が所属する小さなマンモス劇団だ。ただ〈マンモス劇団〉などと言われるのは本人達は嫌がるかもしれないので、ここでは彼らのことをマンモス集団と呼ぼうと思う。

 ご存知のように生物のマンモスは遥か昔に絶滅した。しかしこのブルドッキングヘッドロックという15頭からなる人間マンモスの集団は、絶滅どころか21世紀の現在においてなお、いっそう健在である。

 まあ彼らとマンモスをこれ以上重ね合わせてみても何も見えてこないのでここらへんにしておくが、たしかにこの劇団の公演は毎回きっちりおもしろいので、皆さん行くといいと思います。

ブルースカイ


作・演出:   喜安浩平(ナイロン100℃)

キャスト:   小島聰 永井幸子 西山宏幸 山口かほり 篠原トオル 馬場泰範
寺井義貴 深澤千有紀 吉田真紀 猪爪尚紀 藤原よしこ 三科喜代 喜安浩平

山乃花絵 相内友美 佐藤幾優(boku-makuhari) 岡山誠 西野大介(チーターダッシュボンバーショット)

スタッフ:   舞台監督:長谷川ちえ
舞台美術:長田よしこ
照明:斎藤真一郎(A.P.S)
音響:水越佳一(モックサウンド)
演出助手:福本朝子
宣伝美術:オカイジン
舞台写真:nana

音楽:西山宏幸
映像:篠原トオル(モジャーフィルム)・猪爪尚紀
衣裳:山口かほり・森川美香
衣裳協力:伊藤真弓
制作助手:川原康義
制作:田中絵美(J-Stage Navi)

協力:   ナイロン100℃ ダックスープ チーターダッシュボンバーショット boku-makuhari 有限会社レトル

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