『役に立たないオマエ』公演を終えて

喜安浩平

喜安浩平

「公演を終えて」

僕は美術部ではありませんでした。

でも美術部に顔を出していました。3年になって突然、美大を受験したいと言い出したからです。漠然とです。ただただ漠然と、芸術家になれると思っていたのです。だけどやがてその無謀な夢は、教育学部の美術専攻に進んで美術の先生になるという、なんか、無難な案配のところへ辿り着くことで、うまいこと落ち着きを見せました。大人たちは安堵したはずです。僕の受験対策を考えてくれた美術の先生は、「オレは絵も下手だしなにも作れない。ダメなんだ。」と公言する先生でした。担任の先生は、「おまえは進学クラスなんだから、勝負はセンター試験だ。」とアドバイスしてくれました。僕はそんな先生たちの勧めるままに、いい案配を目指しました。それでいいんだと思ってました。

で、なりませんでした。美術の先生。教育学部に行って、美術を専攻したにも関わらず、なんか、ええ。

ならなくてよかったかどうかはわかりません。今でも憧れはかすかに残っています。が、さすがにここまで来ればもう後戻りは出来ず、後戻りできないと思えると、なんだかあの頃の美術室で感じたあれこれがずいぶんちっぽけなことだったなと思え(それはただただ時間の経過がそう思わせてるだけでしょうけど)、だからそろそろ自分を擁護することなく、ただもうささやかなおかしみとして、あの頃の空気を描き起こすことが出来ると思ったのでした。

僕が知っているのはあの時の空気。描けるのはあの時の空気。

もう少し描いてみようと思います。もう少しおつき合いください。次は11月。描くのはまた別の「あの時」。文化祭の熱も冷め、代わりに漂うのは得体の知れない凍てつく空気です。小さく震えて壊れそうなあの連中のことを、手助けなんかせずただただじっと、目をそらさずに見つめてみようと思います。どうなるんだろ。こわい。もうドキドキしています。

あ、多数のご来場ありがとうございました。あの美術室でまた。あの連中とお待ちしています。