深澤千有紀の「下見」レポート!

深澤千有紀の「下見」レポート‼

4/4、4/5に行われた、公開通し稽古「下見」。じっくり観させていただきました。普段ブルに出演している時には、自分のお芝居に手一杯で見えないことが見えたりもしました。前回のイベント「公開脚本開発会議『ブループリント』」からどうなったのか…ともかく思ったこと書きますね!(少々写真が粗いのは深澤が自分のスマホで撮ったからです。自分の目で瞬間瞬間を捉えました)


【その25】

「雪ロード埋没」

 ひとことで言うなら、「すんごく面白かった」。

 とてもとてもみんながお芝居を楽しんでしていることが伝わってきます。粗いところもありましたが、きゅんきゅんきゅんきゅんきゅーん。甘酸っぱいったらない。

 場面は田舎町のとある駅舎。大雪でいつ来るとも知れない電車が来るのを待ちながら、髙橋演じる「高倉(元野球部)」と浦嶋演じる「手嶋(現在も野球部)」が将来の話をするところから始まります。

2人は高校2年生。進路もそろそろ決めねばなりません。手嶋は柔道整復士になるために東京の大学へ行くと言う。高倉はまだ進路のことなどきっと考えていない男子に見えます。

そこへ同じく高校2年生の3人組の女子(二見、平岡、山田)がやってきます。3人は心理テストをしたり高倉と手嶋を比較してどうしても高倉より手嶋の方がカッコよく見えてしまうことを笑います。そこへトイレにこもっていた男子、篠(「ささ」と読みます)が戻ってきて言います「全部丸聞こえでしたよ」って。

この全部聞こえているということが後で効いてくるのですよ、ふふふ。篠は女子とも気軽に話せる秀才です。こういう子いるよね、って感じ。演じているのが橋口勇輝なのですが、普段の橋口もこんな感じです。同期の劇団員とも先輩達ともうまくやれる。私もこいつとは前回公演「バカシティ」以来なんだかとても喋りやすい。新たに駅舎に入ってきた3年女子(葛堂、鳴海)とも、もちろん女子同士のように打ち解けています。

「36の質問と4分間見つめあうことで恋に落ちる」という心理テストを篠が提案しみんなでやることになります。そしてどうしても手嶋はその心理テストをやりたい気持ちが見える。どうも好きな人がいるみたい。それが誰なのかどうして東京の大学に行こうとしているのかが明かされます。鳴海演じる「南本朝」と葛堂演じる「戸ケ谷華」。

2人とも東京の大学を受験した3年生です。2人の会話。華は朝に打ち明けます。手嶋と電車の中でよく話すようになったこと。電話がかかってきて付き合ってほしいと言われたこと。大学受験に落ちたことを華は手嶋に言ってません。これ、どうですか?なんとも言えない甘酸っぱい気持ちにわたし心臓バクバクするんですけれど。でまた、たまたまこの時トイレに入っているのが高倉なんです。ね、トイレでは話が丸聞こえってのが効いてくるでしょう?

電車がようやっと来るというアナウンスが入って一同帰れることに安堵する。皆の前で高倉は手嶋の気持ちを自分のことのように代弁します。いや、わからない。私読み取れなかった。もしかしたら自分の気持ちかも。とにかく、好きな人がいたけど振られたこと、その人と同じ東京の大学へいこうとしたけれど、その人に今やれることを頑張ってと言われたこと。

もうー、なにこの切ない感じ。私泣きそうになりました。高校時代に気持ちだけはジャンプ。ちなみに私は山田演じるところの「藤田まつり」のような高校生でしたが…。

高校生という誰もが通ってきた時代の情景スケッチのような瑞々しいこのお芝居。その中にセリフがきちんと血肉のついた心に刺さる言葉となって観ている者の奥に深く入り込んできます。私にはもうできない芝居。この【その25】チームにしかできない素敵な芝居です。ここから本番までにさらに磨かれていくのかな。とっても楽しみです。


【その38】

「遮光婦人」

鳥人間コンテストに出場しようとしている団地のサークルでのお話。コンテストのドキュメンタリーカメラマンに取材されながら、一人の主婦と3組の夫婦が会話を交わしていきます。

意地悪なお芝居だなと思いました。鳥人間コンテストになぜそんなに出たいのか、岡山誠、ゲストの和田瑠子さん演じる「浜岡夫妻」がなんだかんだ言いながらなぜ結婚しているのか、津留崎夏子演じる「冬子」は夫のどのへんがいつかいなくなってしまうと感じるのか。

明かされないことが沢山あるように私には感じたのです。あ、あと、はしいくみ演じる「くみ子」がどういった理由で鳥人間コンテストに出るという約束を交わしたのか…だって約束したからっていうだけで出るにはこのコンテストはちょっと突飛過ぎやしないか、と思うのです。親子にどんな深い絆があるのかな。

30代の役者で構成されたこのチームの世代としてのあがきが見え隠れしたのは私だけでしょうか。20代ほど若くない、けど40代ほど達観してもあきらめてもいない年代。そこには、結婚している、子供を産もうとしている、子供を育てているという本気で現実と向き合わないといけないエネルギーがあります。そのエネルギーが鳥人間コンテストに出るというとてもエネルギッシュな感があるモチーフを選ばせたのかな。だとしたら、それはそれですごいことです。鳥人間コンテストに出たい気持ちをお客さんに実感として伝えるのはきっと大変なことですもの。

あるお客さんが喜安さんに言ったそうです。「夫婦の会話が、よくある感じで身につまされ、それが感じられてとても楽しかった」と。

お。なるほど。もしかしたら、私の方が見えてないのかもしれません。私はこれまで結婚もしていない、子供を産んでいない、そして鳥人間コンテストは見るのは好きだけど出ようと思ったことはない。この物語に、はまれる人とそうでない人がわかれるのかもしれません。そうだ!鳥人間コンテストはまあ好みがわかれるけれど、夫婦に焦点を合わせたらどうでしょう。結婚をしたことがある人でなくても、好きな人と暮らしたり、好きな人の子供を産もうと考えたりしたことがある人は沢山いるのではないでしょうか。夫婦のありようをもっとドラマティックに伝えられたら…とても素敵な人間ドラマになります。

この物語は登場人物が全員結婚しています。役として出てこない「くみ子」の夫、竹内健史演じるカメラマンにも妻がいる設定になっています。私は、その夫なり妻なりの芯が見たい。明かされないことは多いけれど、結果明かされてしまう「気持ち」が見たいと思いました。

このチームで脚本を書いているのは、はしいくみと猪爪尚紀ですが、まわりも奮闘しています。脚本会議を稽古場で喫茶店で、はたまた道端で夜遅くまでやっていると聞きます。あがいています。そして、そのあがきが本番で爆発すると私は思っています。だってね、このチームのメンバー全員いつもブルの作品では笑いをさらう側の人達の組み合わせなんです。たまたま30代として集まったら全員そんなメンバーだったのです。これっていつも一緒に作品に出てる私からしたらとても期待値の高いことなんです。ぜーったい、すごいことになる。そのすごいことに向かってもうちょい頑張って走って!と40代の私は思います。あがく、現実に立ち向かう年代の30代チームの生きざまを本番で私は目撃しようと思います。


【その41】

「やさしい男」

公開脚本開発会議「ブループリント」(2017年2月19日)の時から設定やモチーフなどがしっかりしていたチームです。大学時代の同級生3人(永井幸子、篠原トオル、ゲストの山崎カズユキさん)が拾った子犬を山に返そうとしているうちにいつしか道に迷い、雨でぬかるんだ道を走るうち車が動かなくなる。

その車をどうにかしようとしてるところへ、2人の男(喜安浩平、ゲストの森戸宏明さん)に助けられてロッジでお話をするうちに、いろんなことが起こるお話。ひと晩のお話です。ひと晩の、というところにグッとくる私です。そして、配役はブループリントで会議してた時と変わらずです。すごいよね、会議で決めたとおりに通し稽古まで進んだことも、その物語を観たら最初から最後まで笑えることも。

まず同級生3人組が車に乗り込むところから楽しい。舞台美術は箱と椅子。そこにパット座りハンドルを握る、揺れる、突如止まる…そんな動作のひとつひとつが3人の体の動きでありありと見えてくるのです。演劇観てるなーって感じ。これ、舞台ならではの感じ。

さらに現れた2人と高級な車に全員で乗り込んでいる様は可笑しいし可愛い。

拾われた子犬「ペロ」が絶滅危惧種のオオカミではないか、と永井演じる「桜木」が疑い始めるところが物語のとっても大事なところ。さらに言うと、ロッジ周辺には監視カメラが何台も設置されており、ロッジの主人はペロを見た途端挙動不審。それはなぜか。オオカミが実はいるのではないか。喜安演じる「栃谷」がついに告白します。このペロはロッジの子だと、犬とオオカミの混合種を産ませ販売している、と。なるほど法を犯していたのですね。

永井演じる主婦の桜木が何者なのか、それはブループリントの時の大きな課題でした。なぜ普通の主婦が夜更けに家を脱け出せるのか。だって夫も子供もいるのですよ。私も知りたかった。そしたらなんと「動物探偵」だったというのです。動物探偵は動物好きが高じて、いろいろ調べるうちに様々なことをたまたま暴いてしまいます。確かに、永井本人にこういうところはあるかもしれません。暴くというより、いろいろ調べるという点が特に。さっちゃん(普段はこう呼びます)はなんでもよく調べます。本当のことを追究します。私のような適当な人間は本当に頭が下がります。こんなことをここで書いたら本人は嫌がるかもしれないけれど。脚本を書いたのは篠原と喜安。よくよく本人の特徴を表現したすごく面白い人物設定なのでした。

動物探偵は不思議がります。この子どこで拾ったの?こんな小さな子がこんなに長距離を動けるはずはない、と。 ブリーダーをしているロッジの主人に栃谷が伝えます。混合種の子犬は数が足りていること、1匹もいなくなっていないこと。

 おお!本当にオオカミがいる?セリフにもある「ロマン」を感じる瞬間でした。

 「やさしい男」はロマンのお話なのでした。大人になり切れない人たちの話、脚本会議の時に出てきていた言葉です。40代は一般的には大人。あきらめも達観も持ち合わせている。けれどそこに、動物好きが高じて夜更けに同級生と車に乗る主婦がいることが素敵です。子犬を最初に拾った篠原演じる「品沢」が実家暮らしなこともその子犬を飼っちゃだめだと言われることも大人になりきれていない切なさと可愛げがある。私自身がこの大人になりきれていない人にあたるからかもしれません。そして役者なんぞを続けている40代だからかもしれません。あきらめも達観も知りながら何か物質的なものでないものを求めている。どうかこの物語が多くの人の心にロマンを感じさせますように。日常の何かをロマンでほっこりできますように。

そして40代の私もこの5人の物語とともにいられたらな、と思います。

(文責・深澤千有紀)

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2017年4月16日(日)~22日(土)
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