【38】が走り出す

実際は2月も半ばに差し掛かろうかという今なのに、こちらはなかなか年を越せません。ぜひお付き合いください。

 

昨年末、年内に一度は各編のメンバーと会っておきたいと思い、それぞれを招集、ミーティング(以降:MTG)を開催しました。

 

12月28日(水)夜。30代チームMTG。

 

この時点では、各編の番号は確定しておらず、年代がそのままチーム名のように呼ばれていました。

 

なにから話そうか…。最初に真面目な話をしても仕方がないと思い、私からメンバーに聞いたことは、「どんなことやりたい?」と、「どんな仕事が来たらオオ!ってなる?」でした。

 

劇団員に聞くことでも無いような気がしますが、こんな時でもなければ聞けません。

 

以下、遅れてきた岡山と藤原の回答は省き、最初からいた、はし、猪爪、竹内、津留崎の回答を、私なりにメモしたものです。意訳されたものもあると思います。ちょっとピント甘いですが、ご容赦ください。

 

 

メモにある著名人の方々、敬称略で申し訳ございません。

 

「 」でくくっているのが、「どんなことやりたい?」に対する回答です。

 

今となっては、猪爪の「はじまりはいつも雨」ex.チャゲ&飛鳥 という回答が、なにを言いたかったのかさっぱりわかりませんが、少なくとも、シャブの話ですよね、とは言っていなかったので、ご安心ください。

 

一方、右寄りに四角く囲っているのが、「どんな仕事が来たらオオ!ってなる?」です。

 

男性俳優はやはり大河ドラマに出たいようです。ちなみに、遅れてきた岡山に同じ質問をしたところ、「アイドルの出ているドラマに出る」という、それしかないのか本当にお前は、という回答が帰ってきました。もう少し、ファン目線から離れて俳優活動をしていただきたいものですが、たぶんそう言うと、返って来る話が長くなる可能性を感じたので、「あはは…」くらいで、おさめておきました。

 

私は個人的に、はしの、「マルサの女」が大変印象的でした。

 

「あマ、マルサの女ですね」

「え、マルサの女…?」

「あはい」

「あの、伊丹さんの?マルサの女?」

「あはい、そうですね」

「え、いくみさん、マルサの女がやりたいの?」

「やりたいっていうかま、はい」

「え、リメイクするなら私がやります、みたいな?」

「そうですねー」

 

雑に書くと、こういうやり取りをしました。面白い人ですね、はし。

 

余談ですが、希望を人に語るなら、なるべくその言葉を具体的にした方がいいと思います。その方が、聞いた側も、だったらこうすれば、とか、それ私手伝えるよ、など、回答を考えやすいからです。もちろん、そんなこと考えてもらうつもりがない場合もあります。女性と話しているとよくあります。あ、これ、現実的な回答をすればするほどがっかりしやがるパターンだな、と思います。聞いて欲しかっただけなんだけどね、のパターンのやつです。聞いて欲しかっただけのパターンのやつは、私みたいな男ではなく、相槌の上手な女友達に話せばいいと、2時間くらい聞いた後に思います。

 

「マルサの女」は実に具体的でした。規模さえ問わなければ、はし版「マルサの女」を上演することだって、まったく不可能ではないでしょう。そういうところから、なにか、無視できない企画が生まれることだってあるのではないかと思います。私は劇作家で主宰なので、こういう風に希望を言葉にしてもらえると、いい反応ができます。

 

逆に、「大河に出る」は、私の範疇ではないと思いました。それは所属事務所のマネージャーさんと話す必要があります。それは男性俳優陣もわかっての回答でしょうから、こちらからはそれ以上触れません。

 

一方、「マルサの女」は、マネージャーさんに言っても、十中八九、「あ、へー、そうなんすか」で終わると思います。はしが米倉涼子さんで、米倉涼子さんがマネージャーさんに、「私、次はマルサの女がやりたいわ」と言えば、誰かが懸命に動くのかもしれません。残念ながら、はしは米倉さんではありませんでした。今調べたら、米倉涼子さんが今企画に出演する場合は、【その41】のようです。永井、篠原、喜安、米倉。…さて、会話になるのでしょうか。

 

話を戻します。竹内が「そして誰もいなくなった」を、津留崎が「トワイライト急行殺人事件」を、また、はしが「湊かなえさんのようなもの」を提案していることから、今後、ミステリー、もしくはサスペンス、もしくはサスペンスミステリーが、思案の俎上に乗っていきます。

 

でもこれ、ほんとは「オリエント急行」だったのではないでしょうか。いや、「トワイライト」もあるにはあるのです。西村京太郎先生による殺人事件がトワイライト急行で起きているようです。ただ、ここでみんながイメージしたのは「オリエント」ではなかったか、と今になって思います。これが、私の書き間違いか、津留崎の言い間違いか、私の記憶には、確かめる材料がありません。

 

ちなみに私が以前から「オオ!」となることとして胸に秘めていたものが、「横溝正史シリーズをやる」でした。昨年はそれが叶い始めた年でした。今は「それを全部やる」です。今の私がタイムスリップして、小学生の頃の私に「君、横溝書くよ」と教えてやったら、「おじさんは誰?」となることでしょう。

 

もう一つちなみに、各人の名前の下に丸で囲ってある単語が、今気になっていることです。はしは、お金と結婚が、猪爪は車の購入が気になっているとのこと。同じ劇団でも、こんなに生活に格差があるのよね、を確信した部分です。

 

さて、岡山と藤原が合流し、今後の流れが検討されました。

 

そこでまず確認されたのが、6人だけでやるか、ゲストさんをお呼びするか、ということでした。その場の私と6人の結論として、ゲストさんをお呼びする、となりました。では一体誰にご相談するのか。

 

なにもないところから「やるんで出てよ」とはさすがに申し上げられません。暫定的にでも内容について考え、その手がかりを探ります。

 

以下、その時に即興的に考えた相関図です。

 

 

ここで前提のお話をしておきますと、1枚目の写真の最上部に、「30代チーム……恋愛 結婚 夫婦」とあります。このチームに、私が最初に投げた素材は、「恋愛、結婚、夫婦」でした。

 

奇しくも、当劇団における既婚者が30代チームに集中していたことが、その発想の一端にあります。みんな作家ではないのでまずは実感から発想しよう、と考えたこと、他のチームとの差別化が図れることが、後押ししました。私が、夫婦について考えてみたい、と思い始めていた、というのもあります。

 

以上の材料を前提に、ささっと相関図を書いたわけですが、ここで、さっきの「マルサの女がやりたい女、はしいくみ」が、さっそく生きてきます。誰かを面白いと思わせると、こういう効果が生まれます。

 

「夫婦」と「マルサ」=「お金」を、結んでみました。

 

「お金を返して欲しい夫婦」と「お金を返さない夫婦」がいる。だけど、生活水準は、お金を返さない夫婦の方が高い。むしろそこには「格差」と言えるほどの差がある。という設定の方が、返して欲しい側の感情が複雑で、描きがいがあると思いました。返して欲しい夫婦の妻がはしです。もちろん、気になっていることを聞いたことで判明してしまった、はしと猪爪の生活格差も、生きているでしょう。

 

次に、二組の夫婦だけで話し合わせると最終的に言い争いにしかならないように思われたので、中間に位置できる人物を設定します。それが「友人」です。ある意味、調子のいい人です。調停役のはずなのに、答えを持たないためにかえって状況を混乱させる人です。

 

また、二組の夫婦どちらにも「子供」がいると設定することで、家族構成の条件を揃え、格差の原因は別のところにあるようにできないか、と考えました。「どちらも子供がいない」は、別の種類の物語を想起させそうだったので、ここでは選びませんでした。

 

さらに。私は、物語を重層的に見せるために、「なんだかよくわからない存在」が必要だと考えることがあります。例えば(大きくとらえると)、「桐島、部活やめるってよ」における野球部のキャプテンのような存在です。

 

それを、「金を返さない夫婦」の「兄」と設定しました。肉親にしたのは、観客に対しても登場人物に対しても説明を簡素にできるからです。それは、上演の条件として「各チーム60分」がすでに存在していたからで、省けるとことは省いていくという考えを持っていないと、後で苦しむのは自分たちだと想像したためです。「姉」でなく「兄」にしたのは、男性俳優の中で一人だけ未婚であること、理由を説明しなくても居ることの違和感を表現できそうな俳優であること、などから、そこには岡山が入るべきではないか、と考えたからです。

 

この辺りまで考えて、いったん、チームの面々を当てはめてみます。そもそものパーソナリティを鑑み、返して欲しい女がはし、調子のいい友人が藤原、なぜいるかわからない兄が岡山となりました。次に、金を返さない女が津留崎か?と考えますが、それでは、この話が劇団員だけで成立してしまうと考え、あえて津留崎を外すことにしました。猪爪、竹内のポジションはこの段階でまだ決まっていません。もちろんこの相関図自体が暫定ですから、決まってなくても問題はありません。

 

となると当然、「返さない女はゲストさん」となります。では「返さない男」は?

 

ここに、ゲストさんを配し、ゲスト夫婦VSブルドッキングヘッドロックの人、という構図を作ることもできなくはありません。ただ、そもそもの我々の目的は『強い作品作り』ですので、ゲスト対ブルの人、という配役のキャッチーさに囚われて物語を構築すべきではない、と考えました。いま取り組むべきは、逞しい主題探しであるとして、配役のキャッチーさはいったん忘れます。

 

となると、先ほど二組の夫婦から外した津留崎を一人にするか、そこにゲスト男性を配し、3組目の夫婦を登場させるか、となります。ここで、「夫婦」を素材にしようとしているのに、夫婦が二組しか出てこないのはどうか、となり、津留崎にもパートナーを配することになりました。というわけで舞台に登場する夫婦は三組。うち、一組に女性ゲスト、もう一組に男性ゲスト、です。

 

さらに、どんなタイプの人物か?など、掘り下げて話をしましたが、長くなってまいりましたので、今回はこの辺で。思考の紆余曲折を経て、最終的にこのMTG中にゲスト候補の方が決まり、実際に出演依頼に動き出すことになりました。とんでもなく年末ですが。

 

この時点では、6人も私も、暫定の相関図とそこから想像したゲストさんお二人のお姿に希望を抱いていたと思います。良いお年を!なんて言い合ったかもしれません。言ってないかもしれません。

 

まさか、まさかこのあと【その38】の出演者欄に、

 

 

『他』

 

 

と記載しなければならなくなるとは、誰も、露ほども想像していなかったのです。

 

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ブルドッキングヘッドロック Extra number

コンストラクション ダイアグラム・オーバー ザ ディメンション
~108の、建設と解体を繰り返す未遂の構想について~

2017年4月16日(日)~22日(土)
全12ステージ
@下北沢 小劇場B1